幸せは、きっとすぐ傍




***


その日は驚くくらいに澄んだ空気で、空は青く高く澄み切っていた。


さゆりは肩掛けのバッグを掛け直しアパートの自室に鍵を掛ける。それから徒歩十分の道程を歩いて駅へ。目的の駅までの切符を買うと、改札を通ってホームに出た。


弟に誘われて行くことになったのは、航空自衛隊のお祭り、だった。少なくともさゆりはそう認識している。


自衛隊好きの弟からすればそれでも駄目らしい。しっかりと一通り説明されても覚えていないに等しいが。


何とか記憶の網に掛かっているのは航空自衛隊という言葉とブルーインパルスという名前。二つとも昔から弟がしつこいくらいに言っていたので覚えている。


昔、といっても二、三年前か。


航空自衛隊というのが自衛隊の空の部隊、空自だということは分かっているが、ブルーインパルス、というのが何なのかはよく分からない。一度画像検索をかけて機体を見たことはある、しかし飛行機だということくらいしか分かっていない。


そもそも弟にこうしてイベントに誘われたこと自体が初めてなのだ。本人曰く行きたくても行く機会がなかったらしい。テスト然り模試然り部活然り、ともかく色々あったと言っていた。


その部活の担当が変わって部活がそこまで厳しくなくなったので行くことを決めたのだとか。だが本人の本命は空ではなく海らしい。


唯一つ問題がある。弟はまだ中学二年。正確に言えば中二の秋。


一人で行くのは、と親が渋った為さゆりに話が回ってきた、というか借り出された。社会人になったさゆりならいいだろう、という次第。


目的の駅で電車を降りて改札を出ると、さゆりはスマホの電源を入れて弟の名前を呼び出した。その番号をコールする。


五コール目で出た弟の声は、一ヶ月電話しない間に少し声変わりしているようで、低く掠れていた。


『今どこ?』

「もういるよ、コンビニの前」

『えー嘘……あ、いた!』


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