幸せは、きっとすぐ傍
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珍しく定時に上がれた土曜日の帰り道。香澄は疲れた身体を引き摺りながら帰途へと着いていた。
大きな仕事があったせいで、ここ最近ろくに眠れていない。夜遅く、終電があるかないかくらいの時間ぎりぎりに帰り、風呂に入る間もなくベッドに倒れこんで寝てしまう。翌朝やはり時間ぎりぎりに起きて慌ててシャワーを浴びる。
そんな生活を繰り返しているから体重は減るわ肌の調子は悪いわで散々な日々。
けれどその仕事にもやっと片がつき、余りに顔色が悪かったからか部長に帰れと言われて久々に定時に上がれたのだ。正確には定時より少しだけ早い時間。
部長も先輩も同僚も優しい人が多い、いい職場だと思う。だからこそ、こんなになってまで仕事を頑張ろうと思える。
駅に着くと改札を抜ける前に近くのスーパーで夕飯のおかずを買い求めた。久しぶりの定時上がりだが夕飯を作る気力はない。あるならその分休みたい、否寧ろ夕飯を食べずに寝てしまいたい。それくらい疲れている、部長が心配して強制帰宅を命じるのも道理だ。
手軽なお惣菜を買い、香澄はスーパーを出た。早く家に帰ってゆっくりしたい。
改札を通って始発の電車に乗り込むと、定時上がりにしては比較的空いている車内の空席を探して座る。上手い具合に端っこを取れた。寝るにはもってこいの場所である。
明日も、休日だ。明日の休みは元からだが、最近は休み返上で仕事をしていたため、休日という休日を過ごしていない。絶対にゆっくりしていよう、寝ようと決め、香澄は横の板に凭れ掛かる。思考回路が鈍っていて正しい名前を導き出せない。
大きな仕事が終わって安心したからだろうか。
急激な眠気が香澄を襲い、香澄はうとうとし始めた。自宅までは一度乗り換えをしなければならないが終点まで乗りっぱなしなので、寝ても特に問題はないだろう。
少しだけ寝てしまっても夜はまた寝られる。そう思って意識を落とそうとするが、身体が疲れているはずなのに中々堕ちない。うとうとまでしか出来ず、眠りに堕ちることが出来ないのである。