幸せは、きっとすぐ傍


直接耳に届く声と電話越しの機械化された声が混ざって聞こえ、通話を切りながらさゆりは声の主を探し出す。


大地、────弟の名前を呼んで手を振ると、大地がごめん待たせた、と言いながら駆けて来た。それに大丈夫と答え、余り息の切れていない大地を連れて再び駅へと向かう。


流石運動部、そして伊達に自衛官を目指していない。


二人分の切符を買ってホームに上がると滑り込んできた電車に乗り込んで空席に座った。


「で、姉貴は今日何しにいくか分かってる?」


話し掛けようとすると先手を打たれ、思わず視線を逸らす。分かっていない。


が、あれだけ熱心に話をされたのに分かっていないというのも────


「分からないのね」

「……ごめん」

「いーよ、姉貴興味ないしね、分かってたし。……今日行くのは、航空祭。ブルーインパルスは知ってるよね?」


それは知ってる、と答えた。じゃあ、と大地が質問を重ねてくる。


「ブルーインパルスの仕事内容は?」

「……えーと、航空祭での飛行?」


分からないなりに考えて答えると、大地に惜しい、と言われた。


惜しいのか、では何が違うのだろう。また悩んでみるが分からないし思い出せない。ギブアップ、と白旗を揚げると、大地は苦笑しながらも楽しげな表情で説明を始める。


「主に展示飛行だよ。確かに航空祭で飛ぶことも多いし今回は飛ぶけど。毎回じゃないし、それ以外────基地祭とか地元のお祭りでも飛ぶ。ただあくまで『展示』だから、戦闘機でも災害時とかに出動する訳じゃない」


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