幸せは、きっとすぐ傍


大胆さを引き出した剛のパートの中に、一寸の狂いも許さないというような繊細な柔。たった六機のブルーインパルスが織り成す、人を惹きつける旋律と模様。


青く高く澄み渡る空を翔る青は、戦闘機というより青いキャンバスに絵を描いていく青い────




「筆、だ」




さゆりの漏らした言葉は誰かが拾う前に青の音が掻き消す。それでも構わない。誰かに聴かせたい訳じゃない。自然と漏れた言葉は、さゆりさえ認識していないかもしれない。



青い筆が白い線を描き出す。そのスピードに誰かが嘆息を吐く。気持ちが分かる、溜め息を吐きたくなるのだ。余りの凄さに。



わあっと観客が一際沸いた。ブルーインパルスがハートを描き出したのだ。



二機の青が左右対称に両側にくるりと回り込みながらハートを描いていく。それだけに感心していると意表を突くように、もう一機がハートに白い矢を突き立てた。




────バーティカル・キューピッド。




そういえばブルーインパルスを調べた時に出ていたと、今になって思い出す。


治まっていた鳥肌がまた立ち、さゆりはそっと両腕を抱くように身を縮める。爆音が遠くなっていく中、ブルーインパルスに言葉を盗られた観客達がその場に立ち尽くす。


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