幸せは、きっとすぐ傍
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十二月に入ったばかりの土曜日。千春は地元の駅で彼を待っていた。
空気は肌を刺すように冷たい。空は比較的薄い色合いの雲が一体を覆っていて、すぐにでも雪が降ってきそうな空模様。
付き合い始めてから一年、出逢ってからは二年経つ。
けれど彼が実家に来るのは初めてで、唐突に親に会いたいと言われたときは驚いたものだ。
両親には付き合っている人がいることは言っているが────結婚、とか、そういう話はしたことがないし、彼から出たこともなかった。だがそう言ってくれたということは期待してもいいということだろうか。
都会というよりは田舎といったほうが正しい場所にある実家。一週間ほど前に母親から祖父が入院したと言われ、金曜日である昨日は有給、一昨日は定時上がりで実家に帰ってきている。
一応持ち直したからいいものの、彼にまた今度がいいのではないかと言ったら尚更早い方がいいと言われたので千春が折れた形だ。良くも悪くも、彼はあまり自分を曲げる人ではない。
彼が乗っていると言っていた電車がホームに滑り込むのを見て、千春は改札の傍まで寄った。ぱらぱらと電車から人が降りてくるのが分かる。
彼はどこだろう────探していると目の端に見慣れた影が入り込み、千春は「隼人くん!」その名を呼んだ。
「待ったか? 千春」
「ううん、大丈夫。待つの嫌いじゃない」
「待ったんじゃねえか。寒かったろ、ほら」
彼────隼人にそう返され、反論出来ずに俯く。すると上からふわり、温かいものが落ちてきた。
思わず顔を上げた千春の首にくるくるとそれを巻きつけた隼人は満足げに笑う。どうやら自分のしていたマフラーらしい。