幸せは、きっとすぐ傍
「……ありがと、隼人くん」
「どーいたしまして。とりあえず、どっか店寄らねえ?」
「え? すぐ行くんじゃないの?」
背の高い隼人を見上げながら千春は問うた。隼人はやっぱり訊くか、とでも言うように頭をがしがしと掻く。
決まり悪そうに視線を外していたが、すっと横目で千春と視線を合わせると、躊躇いながら言葉を一つ。
「……だって千春、寒いだろ」
なるほど温まろうかということが言いたいようである。
それが分かった千春は瞬時に頬を染めた。全然人のことは気にしていないようでいて、この彼は案外周りを見ているのだ。それはされた方も気付かないところでさりげない優しさを見せる。
そんな隼人が好きな千春だが、やはりこうやって不意にさりげない優しさを見せられることには未だ慣れない。恐らく慣れることはないだろうと思う。
頬の赤いまま、千春は隼人の手を取ると「こっち」────隼人を引っ張って近くの喫茶店へと入った。まだ小学生の時分から入り浸っていたのでマスターとは顔見知りだ。
多少恥ずかしくもあるが、これから彼女の両親と合う隼人に比べれば微々たるものである。
いらっしゃいませ、と声を掛けてきたマスターに会釈をし、千春は奥の二人掛けの席へ座った。大人しく着いて来る隼人は緊張しているのか話さない。
注文を取りに来たバイトらしい若い子にレモンティー二つ、と勝手に隼人の分まで頼んでから、千春は隼人と視線を合わせた。
「……隼人くん、ありがとう」
「否、いーよ。気にすんな」
店内は暖房が効いていて、冷えた身体には丁度いい暖かさ。隼人は恥ずかしそうに返し、不自然に視線を逸らす。照れているらしい。
そんな顔をされるとこちらまで恥ずかしくなる、と千春も俯いて隼人の顔を見ない。付き合い始めてから一年が経つのに時々こういうことがあるカップルも早々いないのではなかろうか。