幸せは、きっとすぐ傍
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からんからん、とドアベルが音を立てる。千春と隼人が入ったのは、実家に行く前にも寄った喫茶店。
癖のようにいらっしゃいませ、と声を飛ばしたマスターは入ってきたのが千春たちだと知ると苦笑した。
実家に行くと本当にたまたま来ていた自衛官のおじさんはつい先日部下の結婚式があったらしく、千春の連れてきた隼人に絡みまくっていた。千春はその様子にはらはらしつつ、けれど隼人は上手く交わしていたので安心したと同時に物足りなさを感じたのは余談だ。
しかしおじさんはともかくお父さんもお母さんも隼人を認めてくれたみたいなのでよしとしようと思う。焦ってはいけない。
朝来た時と同じ場所に座ると、隼人の顔が千春からよく見えるようになる。その顔は朝より心なしか肩の荷が下りたような感じがして────改めて緊張していたのだと実感。
全くそんな素振りは見せなかった隼人に尊敬の念さえ抱く。私にはとても出来そうにないな、と。
「……ありがとな、千春。無理言っちゃったのに」
「ううん、全然。……寧ろ嬉しかったよ」
素直に口にすると、隼人は照れたらしく両手で顔を隠した。千春はへへ、と笑いながら隼人を見る。
考えてみれば隼人と会うのは一週間振りだった。祖父が危篤だと言うからろくに会いもせずに帰ってしまったからだ。
けれど持ち直したから帰ってもいいと言われ、明日から仕事もあるので隼人と一緒に帰ることになった。両親も隼人なら安心だと言って千春を託したのである。