幸せは、きっとすぐ傍

疲れすぎて少しばかり興奮しているのかもしれない。疲れていてうとうとしているのに眠れないのも酷な話である。


それでも瞳を閉じて壁に凭れ掛かっていると、隣に誰か座った気配がした。


うっすらと瞳を開いて隣を見てみる。そこに座るのは、恐らく高校生くらいのカップル。


制服を着ていないのはサボったせいか、それとも休みの日なのか。


二人で顔を寄せ合って笑い合う彼と彼女はとても幸せそうだ。只今彼氏のいない香澄からすれば羨ましい限りである。


再び瞳をそっと閉じ、小さく吐息を吐く。嗚呼、寝てしまいたい。疲れているのに眠れないなんて、一種の拷問かもしれない。


ずるり、席から滑り落ちる。身体は寝ているらしい。あれか、金縛りか、と思いながら身体を引っ張りあげるように座り直す。その間もカップルは二人でこそこそ話しをしていて、消えてしまえばいいと少しだけ思ったのは内緒だ。


鞄を漁って音楽プレイヤーを取り出し、片方の耳にイヤホンをはめる。適当に曲を選び出し流すと、聴いているうちに今度こそ本格的な眠気に襲われる。


堕ちるのが分かって、しかし動くのも既に億劫で、香澄は簡単に意識を手放した。手放した意識は先程とは違って驚くくらいに早く闇に呑まれ、同時に香澄の思考回路もシャットダウンした。




***


ふ、と目が覚めた。


気が付くと隣のカップルはいなかった。座り直すことで体勢を変え、耳からイヤホンを抜く。


今どの辺りなのだろうかとドアの上の表示を見れば、終点まで後三駅。


どうやら思っていたよりも寝ていた、否寝られたらしい。だがそれでも不十分で、中途半端に寝たせいか更に疲れたように感じるのは気のせいだろうか。


外はもう既に真っ暗で、ぽつぽつと家や街灯の灯りが見える。見えては消え、見えては消え、それが繰り返されるのは手前に樹が植えてあるからだ。空には月も星も望むことは出来ず、曇っているのだろうと推測してみる。

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