幸せは、きっとすぐ傍
「たいちゃん、どうして帰ってきたの?」
嗚呼それな、と太陽が頷き、確かにといったように隼人も聞く体勢に入る。しっかりと聞く体勢の二人に太陽は照れながら、思わぬ事実を口にした。
「結婚するから、こよみ連れて来る前にそれとなく言っておこうと思って。後たまには顔出さないとなあと」
「え、こよみ結婚すんのか!」
「嘘、たいちゃん結婚するの?」
だからそうだって言ってるだろうが、と太陽が請け合う。いつもより若干言葉が雑なのはどうやら照れているかららしい。
おめでとうたいちゃん、と返しながらも千春の心は複雑である。
羨ましい、という気持ちが喉のすぐそこまでせり上がってきて、千春は慌ててその言葉を飲み込んだ。
隼人がどう思っているのか確信が得られていないのにこんなこと訊いて、自分だけ早まりたくなかった。もし隼人が何も考えていなかったらと思うと怖くて訊けない。
だが、千春のそんな葛藤はお構いなしに、太陽は千春にとっての爆弾を投下した。
「そういやお前等はどうなんだ? 隼人がこっちにいるってことはそれなりなんだろ?」
隼人を見るのが怖くて千春は俯く。否定されたらどうしよう、────けれど頭の上に温かい重みが増して、千春はちらりと顔を上げた。
そこにあるのは隼人の手。そして隼人は千春こそ見ていないものの、照れたような笑みを浮かべている。
千春が見ているのに気付いた隼人は続けてぽんぽんと軽く頭を叩き、くしゃりと頭を撫でた。突然のそれに瞳を閉じると、隼人の声がするり、耳に入り込んでくる。
「まだ準備中。今日だって初めてご両親に会ったし。けど絶対結婚するから」
はっきりとした意思を孕んだその声に、千春は思わず雫を落とした。
どうしようもないほどに嬉しい。隼人と太陽がびっくりしたように千春を見つめる中、千春は涙を流しながらありがとう、と呟く。そこから先は嗚咽で言葉にならない。
隼人がうん、と頷いたのが分かった。再びぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。頭に感じる温もりに幸せだな、と思いながら千春は小さく笑い返した。