幸せは、きっとすぐ傍
ぼんやりとそんなことを考えならが外を眺めていると、電車は減速し始めた。後二駅か、と思ってまだ座り直し壁に凭れ掛かる。
ぷしゅー、と間抜けな音を立てて扉が開き、数える程度の人が入ってきた。その中の男女の二人が開いていた前の席に座って、彼が彼女の耳元に口を近付ける。
嗚呼ここもカップルか。そう思って視線を逸らす。けれど今度はちらちらそのカップルを見ていれば、彼女の左側に座る彼氏が彼女の肩に頭を乗っけた。
ぽんぽん、と彼氏の頭を優しく叩く彼女に、少しだけいいなと思う心が浮き上がる。それを振り払うように視界から二人を追い出す。
それから隣に視線を向けて、香澄は思い切り目を見開いた。
「────大地」
「探したよ、香澄」
別れたはずの────否、香澄が逃げたはずの。彼氏がいつの間にか、隣に座っていた。
「どうして……仕事は、」
「とりあえず、一段落着いたから。またすぐいなくなっちゃうけど」
でもだって、私は大地から逃げたのに。香澄の思考がこんがらがる。
けれど大地がそこにいることは確かで、わざわざ休みの日に探しに来るなんて、────そんなの。
「酷いこと言ったのに……っ」
「あんなの、酷いことの内に入らないよ。香澄が思ったこと言っただけだろ」
静かな電車内。香澄と大地の座る席だけが、どこか別世界の様に感じる。不意に泣きたくなって香澄は俯いた。
大地は俯いた香澄の頭を軽く叩くようにして撫でると、小さく笑みを零す。ねえ香澄、と優しく名前を紡がれて、香澄はなあに、と細く声を落とす。
駄目だ、泣いてしまう。香澄が泣くのは卑怯で、悪いのは香澄だと分かっているのに大地の優しさに泣き出してしまいそうになる。