幸せは、きっとすぐ傍
***
仕事にも漸く慣れ、少しずつ余裕が出てきたゴールデンウィーク明けの最初の休日。大学で仲の良かった四人のうち一人の家で鍋パーティーをすることになり、その準備に駆り出された和泉は電車に乗っていた。
今回はこよみの家でやる。否今回も何も今回が初めてなのでこの後もまたやるのかは分からない。
就職してから約一ヶ月と半月、一段落したとは言え新人扱いもされているようないないような。されていない場合は新人以下と見做されている確率が九割以上だろう。現実はシビアである。
そもそも何故このゴールデンウィーク明けに鍋をやることになったのか。理由は簡単、店に行くよりも安いし鍋なら準備も比較的楽だからだ。野菜と肉を切って煮ればいいのである。
集まることは大学にいることから決めていたし、仕事を始めたばかりの自分たちが集まれるとしてもせいぜい居酒屋の飲み放題、それならば誰かの家に集まった方が早いし安いという結論。
和泉もそれに賛成だったから、こよみに手伝いを頼まれた時素直にそれを引き受けたのだ。メンバーは四人、和泉とこよみ以外の二人は男性なのでこういうことには向かない。特にあいつ等なら尚更。
目的の駅で降り、改札を出て五分くらい歩くとアパートがある。行くといったのだが買い物ついでに迎えに行くと言われたのでそこら辺にいるのだろう。勿論お互いに合流してから買い物だと分かっている。和泉とて初めからそのつもりだ。
改札を出ると辺りを見回し、こよみの姿を探す。いないなあ────「和泉!」そう思っているとこよみの声が聞こえた。見ていた方とは逆方向。手には近くの本屋の袋がある。成る程私用で買い物か。
「ごめん! 待たせた?」
「んーん、全然」
実際待っていなかったのでそう返すと、こよみは少しだけ安堵の表情を見せる。どうやら心配だったらしい。別に待つことくらいなんでもないのだが、こよみは時間に厳しいのだ。
そんなこよみが好きだけど、と思いながら和泉はこよみに行こうか、と声を掛ける。この辺りに来たのは久し振りだが、余り変わっている様子はない。