幸せは、きっとすぐ傍
後はちょっとしたおつまみと缶ビール一本ずつを買っていざこよみの家へ。代金は男性陣に多くなるように割り勘である。手間賃だ手間賃。
こよみのアパートに着くととりあえず肉を冷蔵庫に仕舞い、カセットコンロを用意する。その合間に和泉が台所で野菜を切っていると、ピンポンというチャイムの直後にガチャリとドアの開く音がした。
「おじゃまー」
「おいこら隼人! 待てよ、」
「いーじゃんかこよみの家だし。早く入んねーと閉めちまうぞ彼方」
わー待て入るわ! などとやかましいなこいつらは。舌打ちをしけるが「うるさいアンタ達! 出て行くか!?」こよみの暴言が聞こえてきたので止めておく。代わりに心の中でナイスタイミング、とこよみを称賛。伊達に四年間一緒にいない。
そういや和泉は、と声がしたので台所ーと返し残りを全て適当に切っていく。それを幾つかの発泡トレーに分けてテーブルに運ぶ、途中に隼人がいたので押し付けた。素直に運んでくれるところいい奴である。
ちらっとリビングと思しき場所を覗き込むともう既に火を点けていたので、和泉は肉と白滝を持って戻った。勿論白滝の下処理は終えている。
「あ、久し振りだね和泉」
「ん、久し振り。香澄ちゃん元気?」
「相変わらず元気だよ」
リビングに行くと彼方が鍋の番をしていた。つゆは出来ていないらしい。構わずに野菜と肉をぶち込みながら尋ねると、苦笑しながら彼方が答える。
香澄というのは彼方の五つ下の妹で、和泉と香澄は同じ書道教室に通っていた先輩と後輩。和泉が先輩な訳だが香澄の方が優秀ではあった。それなりに仲は良かったから大学で彼方にそれを言われた時は大層驚いたものである。
「なあ酒ねーの?」
「あるよ、一人一本ね。冷蔵庫ん中。隼人飲みたいなら取ってきて」
「へいへい分かってますよー。……お、あったあった」
隼人の問いにこよみが答え、冷蔵庫の中を漁る音がしてから声がする。どうやら見つけたらしい。缶ビールとおつまみを持ってきた隼人が席に着くと、漸く鍋が始まった。