小悪魔な彼の想定外な甘い策略
「……はい、そーっすね……」


いつものようにふざけた梶山君に戻ってくれることを密かに祈っていたけれど、それからまた歩き出した私達は無言だった。
でも、横並びではなくて、梶山君が半歩前を歩く。
まるで怒っているみたい。


変なの。
蓮田さんのことを相談していたのに、なんでこんな話になっているの?

早歩きで息が上がりかけた頃、タクシーが捕まった。

私をぎゅうと押し込んで、ドアを閉めようとする梶山君。


「え、何でよ?乗りなよ」

慌てて誘うも、ふるふると首を振り、後ろへ下がる。
同じ方向だって言っていたのに。


「酔い覚めたんで、大丈夫です、うち、もう徒歩圏内です。変なこと言ってすみませんでした」

え、でもさ、などとぶつぶつ言っているうちに、ドアが閉まる。


閉まりかけのとき、梶山君の放った言葉が聞き取れなくて、窓を開けようとするけれど、もう唇は動いていなくて。


辛うじて聞こえた音を繋げて推測するけど、全く分からない。
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