小悪魔な彼の想定外な甘い策略
***

お店の前で立ち止まり、そわそわと前髪直す。
斜めに流した形を整え、サイドと全体も軽く撫で付ける。
バナナクリップでまとめていたので、もしかしたら変な癖がついているかも、と後悔しつつ、セミロングの髪の毛をもう一度まとめるようになぞる。


ああ、失敗。
なんで私は今日ごくごく普通のオフホワイトのボウタイブラウスに、ブラックのガウチョパンツに薄手のニットカーディガンという地味な出で立ちで来ちゃったんだろう。

パンパンと埃を払ってから大きく息を吸い、重めのドアを開ける。

カラン、と渋い音がする。


バー『RIZE』。
そのお店は、入ってすぐのカウンターに7席、横にボックス席が2つという、とてもこぢんまりとした造りで、そのサイズ感が妙に落ち着く。
職場から駅までの途中、ちょっと横道に入ったところにあるなんて、つい最近まで知らなくて。
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