美しいにもほどがある
紗江子という女
「どうしてこんな顔に産んだのよ」

紗江子が両親に泣きじゃくって詰め寄ったのは、中学2年の夏だった。
近所の神社であった夏祭りの帰り、大変な騒ぎが起こった。
薄暗がりのなか、縁日でにぎわう参道を、浴衣姿で歩いていた紗江子と友人4人組。

一人が慣れない下駄につまづいて、食べかけのかき氷を、前を歩く男の人の背中にかけてしまった。
「冷てえっ」と振り向いたのは見るからにガラの悪そうな茶髪の作業着姿の若者だった。
「なにすんだよ、えっ」「どうしてくれんだって言ってんだ」
年下の女の子たちにも関わらず、凄みをきかせてけんかを売ろうとしてきたそのとき、
紗江子がとっさに一歩前に出た。

「ごめんなさい」

濃紺に朝顔の赤や黄を染め抜いた浴衣を着た紗江子が友人をかばって、若者に頭を下げ、
顔を上げた。

と、見る間に男の顔から怒りが消え、ただ呆然と紗江子の顔を見つめた。
言葉がなくなり、口は半開きになり、目は瞬きを忘れた。

「ごめんなさい」

念押しのように紗江子が頭を下げると、男はようやく我に返ったように首を振った。
「え、あ、あの……、いや、うん」
的を得ない言葉を口にして、それでも、紗江子を見つめた。

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