生神さまっ!
『恋をすると、見た目に気を使う』


病院で、念入りに髪を洗うようになりました。




『好きな人と話すだけで、胸が苦しくなる』


毎日キュンキュンしちゃいます。



『好きな人が他の異性と話しているだけでもやもやする』


看護師さんでも若い人だと…うん。





そんな思いを抱えたまま。



時は確実に過ぎ、年も明けてしまった。




そして…



「ついに明日退院だね、春乃」



「…うん」



「おめでとう」



彼の笑顔に、今日も胸が高鳴る。



あたしの複雑な感情なんか知らずに、彼は笑う。



「春乃の家族も喜ぶね」



…家族、か。



あたしの、家族。




「…あたしね、家族いないの!」



「え…?」



目をまあるく見開いちゃって。



…あたしに家族がいたらお見舞いが来て、ずっと春樹の部屋に入れないよ。



「孤児院のおばちゃんから、連絡は来たけどね。やっぱり忙しいみたい。

…あたしのお母さん、女手一つであたしを育てた…事故で亡くなっちゃったけど」



今でも覚えてる。


優しかったあたしのお母さんの笑顔。



「…台風に日にね…保育園であたし、ずっとお母さんを待ってたの。

お母さんは仕事でなかなか来れなかった。


…けどね、お母さん…仕事が終わった後、焦って車を飛ばして…」




最後の方は涙混じりで、うまく言葉にならない。



それでも、伝えたかった。



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