生神さまっ!
虚ろな視線は、いつの間にか私の後ろに集まっていたみんなにも焦点を当てていた。

「…冬夜…そうだ。

僕は、冬夜だ」


ん、と少しうめきながら冬夜は体を起こそうとした。

慌てて元彰がそれを支え、後ろの柵によっかかる形で座らせた。


「…冬夜。お前はなぜここにいるのか、知っているのか」

「…もちろん。
俺はずっと冬斗の中にいたんだ。

君たちの動向はなんとなくわかる。ずっと見てた」


冬夜は、どこか具合が悪そうながら、でも確かな強さで言った。

冬夜は自分がなぜ呼ばれたのかも知っている…


「あいつもばかだよねえ。

俺が作り出しちゃった人格らしいけどさ。結局俺は父さんの虐待から逃げるためにあいつを作ったわけで。一番苦しい思いをしたのはあいつのはずなのにな。

ここでも、俺を優先するとか…ばかだよなあ、まじで」


そっか…確か冬斗は、お父さんから暴力を受けるときに逃げたい、と思った冬夜が作り出したもの、だった。

冬斗は…ずっと、耐えてたんだもんね。


「…捧げるなら、ずっと逃げてた俺にするべきだっただろ。

俺でもあいつでも、捧げれば変わらない」


「…お前はこの世に、未練とかねえよかよ」

「…未練?ないよ、笑わせないでよ。

僕の存在はもうこの世にないんだっけ。ここで僕が捧げられれば、転生だってできる。
あいつに復讐できないのは悔しいけど、そんなのもういい。

…黒姫、だっけ。
今からでも遅くないんだろ。冬斗の代わりに、僕を捧げろ」


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