腹黒司書の甘い誘惑
わたしはベンチから立ち上がる。
そして笹本先生に頭を下げた。

「ありがとうございます」

「いやいや。柊也の機嫌が直らないと俺の大事な休憩場所に行きづらいからさ」

笹本先生はにこにこしていた。

頷いたあとすぐ、わたしは歩き出した。
学園から出て駅へ向かい、バスに乗り込む。

柊也さんの車ではすぐに着いたけれど、徒歩とバスだと倍かかってしまう。

バスの窓から薄暗くなってきた外を眺めながら、柊也さんのことを考えていた。

一目惚れからはじまって、想像していた人と違って最悪だと思ったし、酷いことも言われた。
だけど、彼の意外な一面を知って本当はそんな人ではないんじゃないかと感じて、もっと彼のことが知りたくなった。

どんどん惹かれていって、今は……好きで会いたくてしっかりと自分の気持ちを伝えたくて仕方ない。

拒否されるのは怖い、けど、この想いを伝えないとダメだと思った。

柊也さん――


保育園の近くのバス停で降り、門の前まで歩いてやってきた。

まだ紙芝居をしているだろうか。
時計を確認すると、時刻は六時半になろうとしていた。
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