腹黒司書の甘い誘惑
門の端に寄りしばらく待っていると、出入り口のドアが開け閉めされる音がして、わたしは視線を向けた。

近づいてくる足音。
幅の広さから、たぶんそうだと思った。

「……何でいるんだ」

端にいるわたしに気づいた柊也さんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに眉根を寄せた。

「あなたに、会いにきました」

「は?」

首を傾けて小馬鹿にした表情で聞き返してきた柊也さんを目の前にしているけれど、わたしは怯まなかった。
ただ自分の想いをしっかりぶつけてやろうと、息を深く吐いた。
理由も経緯も、そんなものは後でいい。

「好きです」

まずは想いだと、わたしは柊也さんの瞳を見てはっきりと伝えた。

目の前の柊也さんが息をのむ。

「鬱陶しいとか、くだらないと言われたけど、わたし、あなたのことが好きなんです。本に触れる穏やかな表情や、子供たちに見せる優しい笑顔に惹かれました」

何かを言おうとした柊也さんよりも先に、もう一度伝えた。

見つめ合って流れる時間。
どんな突き放す言葉を吐かれても、しっかりと相手を見ていようと思った。

「……なんなの?」

すると柊也さんは戸惑っているような声を出した。
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