腹黒司書の甘い誘惑
そしてどんどん困惑した表情になっていく。

「こんなところで言うことじゃないだろ……」

柊也さんを見ていたら、胸がきゅっとなった。
わたしはゆっくりと彼に近づく。

ただ、そばに寄りたいと思った。

「すみません。でも、伝えたいって思ったから」

そう言うと、彼はじっとわたしを見つめた。

「俺は……」

柊也さんが言葉を発したとき、一台の車が道を通ってそのヘッドライトにわたしたちは照らされた。

去っていく車をちらりと見たあと、彼は溜め息を吐いた。
わたしは俯いて前髪を触る。

“こんなところ”だということを忘れてはいけない。

「車に行こう」

柊也さんはそう言って歩き出した。
相変わらずの淡々とした声だけれど、ほっとしたわたしは頷き、後をついていった。
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