腹黒司書の甘い誘惑
***


乗り込んだ車のドアを閉めると、二人きりの静かな空間を意識して脈が速くなった。

駐車場の外灯の光がある程度届くので、手元や相手の表情は一応見える。

そわそわして俯いていると、柊也さんが深く息を吐き出した。

「まったく。君には参った」

飽き飽きしているような声に、鼓動が強くなる。
わたしの告白は柊也さんをまた不快にさせてしまったのかな。

でもどうしても言いたかった。伝えたかったんだ。
唇を噛んだわたしはそのまま黙っていた。

「……最初は、図書館に毎日訪れてこちらを気にするように見てくる君が、本当に鬱陶しかった」

すると柊也さんがぼそりと話はじめたので、わたしは顔を上げて彼の横顔を見つめた。

「好意を持たれても面倒だから。だけど君があまりにもぼけっとしているから、からかってみたら面白いんじゃないかと思って遊んでいた」

「ぼけっとしているって何ですか」

「してるだろ、ぼけっと」

「なっ……」

何か間違ってるか? という表情でわたしに視線を向けた柊也さんを、わたしは険しい顔でにらむように見たけれど、咳払いをしてとりあえず今は落ち着くことにした。
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