腹黒司書の甘い誘惑
「だけど、君が意外と本を読むことを知ったり、一緒に本の話ができたり、どんくさくて頑固で無邪気なところを見ていたら……」

柊也さんはそっとわたしを見つめた。
言葉の先が気になる。
なのに彼は急に視線をそらし、ばつの悪そうな声を出した。

「君は兄さんに好意を持ちはじめたんだと思ってた」

「えっ!?」

なんで、とわたしは前に傾いて柊也さんの顔を見た。

「ただの事務員のクセに、理事長の兄さんと話しているのを何度か見たから」

「そ、それは、理事長が花壇に水をあげていて、申し訳ないと思って声をかけたり……柊也さんのことで話をしたり……」

「俺のこと?」

「理事長との仲が気になったから……」

「余計な詮索だな」

「ごめんなさい……」

「もういいけど」

視線を落としたわたしに、柊也さんは短い溜め息を吐いた。

「別に君が誰を好きでも関係ないと思っていた。なのにこの前、君が兄さんの話をしたとき、何故かイラついた。嫌な感じがしたんだ」

わたしはゆっくりと視線を柊也さんに戻す。

彼はハンドルを見ていた。

「そういう気持ちになった自分も馬鹿馬鹿しくて腹が立った。面倒な感情に飲み込まれたくないと思って、くだらないと君に言って自分の気持ちも抑えようとした。けど本当は、先週君が言ったことやさっきの言葉を……嬉しく思う」

困ったようにそう言った柊也さんに、わたしの胸がどきんと跳ねた。
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