腹黒司書の甘い誘惑
わたしは彼の腕にそっと触れた。

なんとなく、触れたいと思ったから。

わたしは柊也さんの腕と自分の手を見つめてじっとしていた。

すると、長い息を吐いた柊也さんがもう片方の手をわたしの手に重ねた。

「くだらないなんて言って悪かった」

彼の言葉にわたしはもういいよ、という思いを込めて小さく頷いた。

「たぶん、俺は君が欲しいんだと思う」

どきん、どきん、と高鳴る鼓動を感じながら、わたしは視線を上げる。

「……いや、たぶんじゃない。俺は君が欲しい」

しっかりとわたしを見てそう言った柊也さんと視線を合わせると、体の奥からじわじわと熱いものが沸き上がってきた。

「どうして?」

「君が好きだから」

握られた手に力が入る。
柊也さんの言葉が頭の中でぐるぐるしていた。
聞き間違えてなんかいないよね。本当だよね。

柊也さんはわたしと同じ気持ちなんだよね?

頬が熱っぽくなってきて、目元がじんじんしてきた。

ダメだと、思っていたのに。

『くだらない』と言われて、終わったと思ったのに。

手が届いた。
好きだと想う人とがわたしを好きだと言ってくれた。
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