腹黒司書の甘い誘惑
「ソファーにでも座ってて」

「あっ、はい」

ぼうっと部屋を眺めていたわたしは歩きだし、言われた通りにソファーへ座った。

「君はお酒飲める?」

「はい、飲めます」

「ウイスキーとビールしかないんだけど、どちらがいい?」

「じゃあ、ビールでお願いします」

「わかった」

柊也さんはキッチンの方へ向かい、ウイスキーボトルと氷、それから缶ビールとグラスを二つ運んできた。

隣に座った柊也さんがグラスに氷を入れる音を聞きながら、わたしは渡された缶ビールをグラスにそそぐ。

「とりあえず乾杯」

「はい、乾杯」

唇の端を上げた柊也さんにわたしは微笑む。そしてお互いのグラスを鳴らした。
柊也さんが口許にグラスを持っていくのを視界の端で確認すると、わたしは落ち着かない気分でビールをごくんごくんと飲んだ。

体に入っていくアルコールが、緊張感を和らげてくれるといいのだけれど。

柊也さんの部屋で二人きりなんて、考えるだけで鼓動が速くなってしまう。

テーブルに置いた柊也さんのグラスに入っている氷がカラン、と音を立てた。

「なんでさっきから全然こっち向かないんだよ」

「えっ……」

「駐車場から目も合わせないよな」

「いや、あの、それは」

「色々考えて構えてるの?」

からかうような笑いを絡ませた柊也さん。
恐る恐るちらりと見たら、やはり意地悪な表情をしていた。
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