腹黒司書の甘い誘惑
紙芝居が終わったら一緒に食事をして、そのまま柊也さんの部屋に泊まっていいか聞く。

緩みそうな頬に力を入れながら、いつものカウンター内に柊也さんを見つけて一度ぱあっと顔を明るくしたわたしだけど、声をかけるために開きかけた口を元に戻してしまった。

ぼうっとしている柊也さんの表情が、物思いにふけているような、寂しそうなものに見えたから。

わたしの気配に気づいてこちらを見た柊也さんは、一変して笑みを作る。

「どうしたんですか?」

「……うん?」

一瞬の表情が気になって首を傾げたわたしだったけれど、柊也さんも首を傾けて問いの意味がわからないと言いたげな顔をしたから、わたしは取り繕うように言葉を出した。

「あ……いや、えっと、お昼食べて時間が余ったからふらっとここまで来たんですけど……今日の夜、柊也さんの部屋に泊まっていい?」

「構わないよ」

目を細めて余裕のある微笑みを浮かべた柊也さんは、いつもの柊也さん。

わたしも頬を緩めた。
けどゆっくりと表情を戻し、視線を館内の奥へ移した。

柊也さん、さっきは一体何を考えていたんだろう。

気になりながら視線を柊也さんに戻しても、彼はカウンターに積み重ねてあった本を片付けていて、とくに変わった様子はない。
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