腹黒司書の甘い誘惑
わたしが柊也さんの表情を窺いながら言うと、彼は眉の力を解いて少し驚いた顔をした。

その感じからして、柊也さんの考え事は理事長のことじゃなかったのかもしれない。どうしよう。

わたしが固まっていると、柊也さんは軽く溜め息を吐いた。

「俺は君に心配をかけていたんだな」

「あ……いや、わたしが勝手に色々思って……」

「これにする」

柊也さんは目の前にあったベゴニアの苗を持ってわたしを見た。
その表情は不本意という感じたっぷりだったけど。

でもお花を選んだということは、理事長にあげるってことだよね。
わたしは微笑んだ。

「きっかけは、些細な事でいいと思うんです」

「……そうだな。兄さんと話をしたいと、考えたりはしてた」

柊也さんはお花を見つめていた。

すぐに仲良くなるなんて難しいかもしれない。
でも、少しずつ距離を縮めていくことはできるはず。

兄弟なんだもの。

「わたし、お節介ですよね」

「ああ」

柊也さんが間を入れず答えたので、ううっ、となったけれど怒ってはいないみたい。

「そういう君だからこそ、助かるのかも」

「え?」

わたしが首を傾げると、柊也さんはわずかに口許を緩めた。

「でも隠すのがヘタすぎる」

「そ、それはしょうがないですよ」

「まあ、君みたいな素直なタイプが俺は好きだよ」

しれっとそんなことを言われてわたしが頬を赤くしている隙に、柊也さんは苗を買っていた。

「明日、学園に持ってきてくださいね」

「……ああ」

やはりどこか気が進まないような返事をした柊也さんだけど、きっと大丈夫だろう。

彼の横顔を見つめながら、わたしは口許を緩めていた。
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