腹黒司書の甘い誘惑
***


次の日。仕事を終えてすぐ、わたしは図書館へ向かった。

中庭の通路を通るとき花壇をちらっと見て確認して、頬を緩めた。

図書館に入ると、柊也さんがいつも通りカウンター内にいる。

わたしは笑みを浮かべながら近寄った。

「お花、持ってきましたか?」

「そこに置いてある」

柊也さんはぶっきら棒な態度で後ろを見る。
視線を移すと、カウンターの奥にお花が置いてあった。

「じゃあ行きましょう」

わたしがそう言うと柊也さんは溜め息を吐き、椅子から立ち上がる。

億劫そうな雰囲気を醸し出しているけれど、お花を持ってカウンターから出て、わたしの横に並び歩きだした。

館内から出て靴を履きかえ、向かったのは中庭。
そこには理事長がいる。
花壇の前で花の様子を見ていた。

柊也さんはわたしに視線を向けて、やっぱり溜め息をひとつ。

彼が本当は繊細だということは、笹本先生から話を聞いたときから知っている。

大体が余裕でわたしをからかって、上手く弄んでくる柊也さんだけれど。

それ以外の柊也さんだって、柊也さんだから。

弱さが見えたら、わたしが支えてあげたい。
笑顔にしてあげたい。
包み込んであげたい。

わたしはトン、と柊也さんの背中に触れた。
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