腹黒司書の甘い誘惑
「兄さんに花を渡すっていうだけでぐずぐずしてる。俺が臆病な人間だってわかって、君は幻滅してる?」

「いいえ。そういう柊也さんは、支えてあげたいって思ってますから」

「……あっそ。なかなか心強いよ」

柊也さんはわずかに口許を緩め、わたしの頭を撫でてから歩きだした。

わたしはゆっくりと足を進めてそばで立ち止まり、柊也さんの姿を見守っていた。

花壇の近くまで来た柊也さんに、理事長が気づいて驚いた顔をする。

「……柊也?」

「花壇、綺麗に世話されてるんだな。今までちゃんと見たことなかったけど」

柊也さんは視線を花壇に向けながら、ツンとした口調。
見守るわたしはハラハラしていた。

理事長は柊也さんを見ていたけど、すっと視線をわたしの方へ向ける。

目があって背筋が伸びたわたしは、慌ててお辞儀をした。

すると、ふっと笑顔になった理事長は花壇へ顔を向ける。

「花が好きなんだよ。なんとなく、和むだろう?」

「うん、まあ、和むかもな」

理事長はじっと花壇を見ている柊也さんの横顔に微笑んだ。
< 156 / 201 >

この作品をシェア

pagetop