腹黒司書の甘い誘惑
普通に会話をしている二人を見て、わたしは本当に嬉しかった。

小さい頃、わたしは兄と比べられるのが嫌だった。
兄は頭が良くて、褒められることが多くて、羨ましかった。

だから柊也さんが子どもの頃、お兄さんの理事長をライバル視していたという気持ちがわかる。
それで二人の関係をどうにかしたいと、強く思っていたのかも。


「なんでずっと難しい顔をしてるんだ?」

柊也さんがわたしの前にやってきて、顔を覗くように見てきた。

どきっとしたわたしは瞬きを多くする。

「お、思い出してたんです、色々と。……柊也さんがこの学園で教師になれてよかったなって改めて思った」

だってここなら、朝のちょっとした時間でもこうして姿を見ることができるし、保育園への紙芝居だって続けることができる。

唇の端を上げてわたしを見下ろす柊也さんは、そっとわたしに手を伸ばしてきたけど。

「滝城先生、おはようございます!」

「……ああ、おはよう」

二人の女子生徒が通って柊也さんに挨拶をしたので、その手は誤魔化すように彼女たちに振られた。
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