腹黒司書の甘い誘惑
相変わらずの意地悪な微笑み。

「あの、ここじゃダメですからね」

「わかってる」

「本当? なら、どうして顔を近づけてくるんですか?」

「なんでだろうな」

「惚けないで……よ……」

たっぷりと見つめられて、胸の高鳴りを制御できず体の力が抜けそうになったとき。

「おはよう!」

声がして、物凄い反射神経でわたしと柊也さんは勢いよく離れた。

壁に張り付くわたし。
腕を組んでそばにある広報を眺める柊也さん。

「え? どうしたの二人とも?」

「……なんだ、笹本か」

「なんだってなんだよ」

溜め息を吐く柊也さん。

わたしたちを交互に見ながら、眉根を寄せる笹本先生。

よかった……笹本先生で。

「お、おはようございます、笹本先生」

やたらと頬が赤いまま、どっきんどっきんしている胸を片手で押さえながら挨拶をすると、笹本先生はにやりとした。

「ごめんごめん、タイミング悪かったね?」

察してしまったとしても、そこは言わないでほしい。
恥ずかしいから。
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