腹黒司書の甘い誘惑
五階にある理乃の部屋へ行くと、むすっとした彼女が出迎えてくれた。

「なんでふざけるんですか! 意地悪!」

「なんだろうな。どうしても気恥ずかしいんだよ」

唇の端を上げて答えた俺に、理乃は眉根を寄せて首をかしげた。

自分の誕生日を祝われることがとてもむず痒くて仕方ない。

だからつい、ふざけてしまった。照れ隠しのようなもの。
理乃だからこういう事をしてしまうのかもしれない。
一種の甘え。

冷静になって馬鹿だな、と思った俺が瞳を伏せると、そっと頬に温かな手が触れた。

目の前で背伸びをしながら俺の頬を包む理乃。

「ほっぺた冷たい……寒いから、早くあがってください」

先程まで怒っていたのに、理乃は微笑んでいた。とても穏やかな瞳。

ぼけっとしてて、天然で、危なっかしい彼女だけど、洞察力がとてもある。

『なんとなく』で人の感情を読み取るのが上手だ。たぶん、本人は気づいてないだろうけど。
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