腹黒司書の甘い誘惑
膨れっ面になってしまった理乃をくすくす笑いながら、スプーンを動かした。


買ってきてくれた苺のケーキは、理乃が恐る恐るナイフを入れて、切り分けた部分がバタッと倒れる前に俺が素早くフォークで支え、危なかったと二人で笑って食べた。

ケーキを美味しそうに頬張る理乃を見ていると、微笑まずにはいられない。
彼女との時間をもっとたくさん――と、欲がでてしまう。

俺は理乃にとても助けられた。
兄さんのことだって、今こうして教師をしていることだって、理乃がいなかったら決心がつかなかっただろう。

自分に向けられる笑顔が愛しくてたまらない。大切にしたい、守りたい。

俺が、彼女のことを幸せにしたいと思うんだ――


「柊也さん」

俺が心の中でひとつ新たな決心をしようとしていたとき、理乃が口許を緩めながら俺の隣へ来た。

考えていたことを一度頭の隅に置いて、「うん?」と彼女を見る。

「はい、プレゼント」

理乃は頬を赤くしながら、丁寧にラッピングされた箱を俺に差し出してきた。
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