腹黒司書の甘い誘惑
薄笑いを浮かべる柊也さんに、わたしは険しい顔をする。

「勝手に困ります!」

「じゃ、豊子さんには俺から伝えておくから」

「ちょっと、あのっ」

勝手に話を進めていく柊也さんに抵抗しようとするわたしを無視して立ち上がった彼はカウンターに向かい、一枚の紙をつかんでわたしの元へやってきた。

「それからこれ。本立てがもっと欲しいから用具の申請書。ついでに持ってって?」

相手の強引で適当な言動に我慢の限界を感じたわたしは、差し出された紙を見つめてから思いきり顔をそらした。

「本当、嫌な人ですね。理事長とは大違い。聞きましたよ、兄弟なんですね? 信じられないです。あんなに優しくて上品な理事長とあなたが兄弟だなんて」

わたしは嫌味ったらしく言ってやった。
こんなことで彼を負かすことなどできないだろうけど、溜まった鬱憤を少しでも晴らしたい。

そっぽを向いたまま、どう言い返してくるだろうかと待っていたけど、相手はなにも言ってこなかった。
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