腹黒司書の甘い誘惑
あれ? と思ったわたしは柊也さんに視線を向ける。

わかりづらいけれど、彼は少しだけ眉根を寄せて不愉快そうな顔をしている気がした。

意外。余裕で言い返してくると思っていたのに。

「兄さんは俺と違って出来がいいからな」

鼻で笑って顔をそらし、捻くれたような言い方をした柊也さんをわたしはじっと見つめてしまった。

仲が良くないのだろうか。そう思ってしまうくらい、素っ気ない雰囲気だった。

彼の横顔を見ていたら勢いをなくしてしまったわたしは、このまま失礼しますと帰ろうとしたとき。
ガチャ、と入口のドアが開いた。

「あれ。この時間図書館に人がいるなんて珍しいねえ」

中へ入ってきて明るい声を出したのは、スーツを着た男性。

やわらかな天然質のブラウンのクセ毛をワックスでセットした髪型と、ぱっちりとした瞳。

柊也さんとはまたタイプの違う、整った顔立ちをした人だ。

「またサボりか。笹本《ささもと》」

「ちょっと、サボりとか言うのやめてくれる? 学生じゃないんだから。これは休憩ね、休憩」
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