腹黒司書の甘い誘惑
焦っておどおどしていると、理事長は水をとめた。

水やりを終えた理事長はホースを片付けてこちらにやってくる。

わたしは頭を下げた。

「すみません、理事長。水やりをしていただいて……」

「いや、いいんだ。花が好きで、水をあげたくて私が勝手にやっているのだから」

そう言って理事長は優しく微笑む。
いつ見てもこうして穏やかで上品で、素敵な人だ。
誰かさんとは大違い。

ぽうっと心を温かくしていると、後ろで足音がした。

「倉橋さん」

呼ばれて振り向くと、そこには不機嫌そうな柊也さんが。

「用具の書類、持っていってと頼んだのに忘れていっただろ」

「あ……」

そういえばあの時、柊也さんから受け取らないでいて、そこへ笹本先生が来たからすっかり忘れていた。

「すみません」

こちらまで歩いてきた柊也さんから書類を受け取り、わたしは謝った。

柊也さんはちらりと理事長の方を見て、次にわたしを見て、すぐに視線をそらした。

その仕草に首を傾げていると、彼は再びわたしに目を向けた。

「来週から手伝いよろしく。ちゃんと来てよ」

素っ気ない態度の柊也さんは、理事長と会話をすることなくわたしに背を向けて図書館へと歩いていく。

わたしはそっと、理事長の方を見た。

理事長は去っていく柊也さんの後ろ姿をじっと見つめていて、その表情がなんとなく寂しそうに見えた――
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