腹黒司書の甘い誘惑
「君は? さっき楽しそうに本を片付けていたけど」

柊也さんの言葉にはっとして、視線を動かす。
やだ、どうしてバレたの。恥ずかしい。

「わたしは毎日ではないですけど、読みたい本があったら読んでます。本、嫌いじゃないです」

「ふうん。あっそう。本読むんだ」

今度は柊也さんがわたしを意外だと言いたげな瞳で見てきた。

「活字読めない感じしてたけど」

「読めない感じってなんですか」

馬鹿にするようにふっと笑った柊也さんに、わたしはムッとしながら口を結ぶ。

何よ。さっきは少し見直した部分があったけれど取り消し!

わたしは険しい顔をしながら本棚に視線を向けた。
そして手前に並んでいる本見て思わず「あっ」と小さく声をあげて手に取った。

読んだことのある小説『棚からぼた餅』。

とある長屋の人々の話で、登場人物が個性的でテンポ良く話が進み、一気に読める時代小説。

「それ面白いよな」

めくって見ていたら柊也さんの声がすぐそばからしたので、わたしは振り向いた。
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