腹黒司書の甘い誘惑
「えっ、読みました?」

「うん、この前」

「そうなんですか! これ本当に面白いですよね。二巻も最近発売して、すぐに読みました」

「へえ、続き出てるのか。読みたいな」

「あ、じゃあ貸しましょうか?」

と、気分が上がりすぎて言ってしまった。

相手は柊也さんなのに。

柊也さんはじっとわたしを見ていて、我に返ったわたしは前髪を触って俯いた。気まずい。

すると柊也さんが小さく笑った、気がする。
わたしは顔を上げて彼を見た。

「読みたいから貸して」

そう言いながらわたしに背を向けたから表情は見えなかったけど、声は穏やかだった。

そして柊也さんは本を持ってカウンターのほうへ歩いていく。

彼の姿を目で追いながら、くすぐったい気持ちになって頬を掻いた。

なんだか、調子がおかしくなる。

いつもわたしをからかうことばかり言って、馬鹿にして、嫌な感じの人なのに。

今、本の話をしていたときは普通だったなって。
その変化にどきっとしてしまった。

いやいや、ダメダメ。
いつもはあんなに最悪なのだから。

でも……、どうしよう。気になる。
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