腹黒司書の甘い誘惑
学校の外へ出るらしい。

さすがに無断で出るのは無理、あと15分で勤務時間が終了だからと、柊也さんを説得して待ってもらった。

五時になって、慌てて事務室のデスクを片付けたわたしは、「お先に失礼します!」と早口で豊子さんと美鈴さんに言って、唖然とする二人の視線をそのままに、猛ダッシュで事務室を出た。

そして向かった学園内の駐車場で、柊也さんと合流。

動き出した黒い高級車に気づいたわたしは、それに走って向かった。

「あのな、園児が待ってるんだよ。どうして君のために15分も遅れなきゃならないんだ」

「すみません、本当にすみません!」

助手席に急いで乗り込んで、不機嫌な柊也さんにわたしはひたすら頭を下げる。

どうしても行きたかった。
だって、最悪以外の柊也さんをもっと知るチャンスだから。

しかし少し強引だったかなと、車が学園の外に出たところで思いはじめた。

先程は勢いばかりでまったく考えていなかった。
これって本当、鬱陶しい女だ。

ため息を吐きたくなったけれど、ぐっとこらえる。

二人きりの静かな車内。
息をするのさえ気にして、どきどきする。
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