腹黒司書の甘い誘惑
乗り込んだときは急いでいたから考えなかったけれど。

これ、柊也さんの車なんだよね。
そう思うと、更に胸の音が速くなる。意識してしまう。

そわそわしながらちらりと横を見ると、運転している柊也さんにどきっとすることになってしまった。

前を見ている横顔とか。
長い腕と綺麗な指先。
ウインカーを出したり、ハンドルを回したりするちょっとした動き。

落ち着いていてスマートで、思わず見惚れてしまった。

駄目だ。胸の音、うるさい。

どうしよう、どうしようと俯いて鼓動が静まるのを待っていると、車がゆっくりと停車した。

「着いた。降りて」

淡々とそう言った柊也さん。
慌ててシートベルトを外し、車から降りた。

すると柊也さんはわたしに紙芝居の絵が入ったケースを渡してきて「荷物持ち!?」と思いながらも素直にそれを抱えていた。

住宅街のはずれ。駐車場の反対側に見えるフェンス越しの遊具たちに向かっていくと横に入口が見えて、『北上保育園』という看板があった。

柊也さんの後ろについて歩き、敷地内へ入っていった。

鉄棒とか、うんていとか、遊具が小さくてなんだか可愛らしく思う。

建物の中へ入ったとき、保育室のドアが開いて髪をひとつに束ねた中年の女性が出てきた。
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