腹黒司書の甘い誘惑
「嫌いじゃないけど?」

だから何という感じで語尾を上げ答えた柊也さんに気後れしたわたしは「そうですか」としか言えなかった。

だけどわかった。ひねくれた言い方だったけれど、間違いなく彼は子供が好きなんだろうな。


子供たちに微笑む柊也さんの表情を思い出して口許が緩みそうになってしまい、必死で唇に力を入れて堪えるというのをマンションに着くまで繰り返していた。

そして車がマンション前で停まると、わたしは柊也さんへ顔を向けた。

「送っていただきありがとうございました。今日は……」

“あなたの意外な一面を見ることができて嬉しかったです”と言葉にしようとしていて、慌てて修正。

「……楽しかったです」

だが修正がヘタクソだった。
恥ずかしくなったわたしはさっさと降りようと俯いてシートベルトを外していると、運転席の柊也さんがくすっと笑った。

「まるでデート後の別れ際みたいな言葉だな」

「なっ……」

ただでさえ恥ずかしいのにそんなことを言われ、わたしは堪らず焦った表情を柊也さんに向けてしまった。

彼は目を細め、からかうような笑みを浮かべてわたしを見ている。

「変なこと言わないでください!」

「からかっただけでそんなに動揺しないでください」

「っ……」

口調を真似して被せてきた相手にわたしは唇を噛んだ。
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