腹黒司書の甘い誘惑
本を扱う姿とか、子供たちに向ける心のこもった笑顔を見ていると、本当は性悪な人ではないんじゃないかと思う。

気になる人だからそう思おうとしてしまっているのか。
いや、やっぱり違うと感じるんだ。

本棚の掃除をしているときだって、高いところは気をつけろとわざわざ言いに来てちょうど椅子から落ちそうになったわたしを助けてくれた……。

ぼんっ、と思い出したわたしの頬が熱くなってきた。

もう時間はたっているというのに、あの時抱きとめられたことを思い出すとドキドキしてしまう。

自宅ではクッションを叩きながら赤面したりしていた。

やだもう、ここは職場なのにっ。
わたしは熱い頬に手をそえて、静まるのを待っていたのだけど。

「なになに、理乃ちゃん。顔赤いわよ?」

目の前に座る美鈴さんに気づかれてしまった。

わたしは焦った表情で美鈴さんを見る。
すると美鈴さんはにやりと口許を緩めた。

「浮かれたり顔を赤くしたり……何かいいことがあったのかな? 恋愛方面で」

目を細めた鋭い美鈴さんにわたしはドキリとする。
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