腹黒司書の甘い誘惑
ごみ袋を持ったわたしは逃げるように事務室を出た。

そして廊下を歩きながらどきどき。

わたしの言葉に対して二人は「はいはい」と笑顔で頷いていたけれど、ちゃんとわかってくれているだろうか。

不安だ。不安すぎる。

わたしがわかりやすい態度だったの?
それともお二人が鋭すぎるの?

うわあ、もうどうしよう恥ずかしい。
わたしはどこまで豊子さんと美鈴さんをかわすことができるだろう。

ごみ袋を抱えながらもうどこか駆けていってしまおうか、と思うほど落ち着かない気持ちだった。


それでもなんとか午後の仕事も終えて、柊也さんに言われた通り駐車場へ向かう。

職員専用の出入り口で靴を履きかえ、外へ出た。

ふと、生徒用の昇降口の方を見たとき、スーツを着たやたらと品の漂う人物を発見。

雰囲気で間違いなく理事長だとわかったわたしは、この遠くもなく近くもない微妙な距離で挨拶をするかしないか迷って立ち止まった。

挨拶をしに近づくべきか。考えていると、理事長が顎に手を起きながら下をじっと見て動かないことに気づき、どうしたのだろうかと気になって歩み寄った。
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