腹黒司書の甘い誘惑
「弟さんの……柊也さんのこと、気にかけているんですね」

そう言ったわたしに再び理事長の瞳が向いて、いけない、余計なことを言ったと思って、慌てて目をそらした。

「君は洞察力があるんだな」

ふっという笑いが一緒に聞こえて、わたしはゆっくりと視線を戻した。

理事長は穏やかな表情だ。

「以前、君は私に柊也と仲が悪いのかと聞いてきただろう。あの時は少し動揺した。学園でそういう風に言ってきた人は初めてだったから」

「す、すみません」

「いや。君は柊也のことをよく見ているんだろう」

何か否定する言葉を出そうと口を開きかけたのに、理事長の柔らかい表情を見ていたら出てこなくなってしまった。

「兄弟でも、間に一度できてしまった壁を取り去るのは難しいらしい」

眉尻を下げて微笑む理事長は、悲しげに見えた。

壁……。
柊也さんと理事長の間に何があったんだろう。

理事長相手に踏み込んで聞いていいのかわからず、黙って理事長を見つめているしかなかった。

どんなことがあったのかはわからないけど、間違いなく理事長は柊也さんを気にしていて、歩み寄りたいと思っているんだろう。そう感じる。
< 83 / 201 >

この作品をシェア

pagetop