腹黒司書の甘い誘惑
「今日はこのお姉さんがカメさんのようにのろのろしていたので、遅くなってしまいました。ごめんね」

柊也さんが口許を緩めながらわたしのことを指して子供たちにそう言うと、みんなの視線がわたしに向いて「のろまさんー!」と囃し立てられた。

勢いがよくて思わずガーンとショックを受けていると、柊也さんは意地の悪い笑みをわたしに向ける。

ムッと眉根を寄せたけど、柊也さんは気にせず用意をはじめた。

実際、わたしが遅れたのが悪いからしょうがないか……。

この前と同じように少し離れたところで柊也さんと子供たちを見ていた。

そんな今日の物語は『うさぎとかめ』だった。

柊也さんがお話を紹介すると子供たちの視線が再びわたしに向いて「かめーかめー」となり、わたしはしょうがない笑みを作る。

だけどお話はカメが休まずこつこつ進んで競争に勝つので、紙芝居が終わると「かめ偉いー!」と子供たちは騒いでいたし、わたしもなんだか誉められた気分になって頬が緩んだ。
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