腹黒司書の甘い誘惑
「単純さが園児と一緒だな」

にまにましていたわたしに向かって柊也さんは呆れた顔でそう言った。

わたしは緩んだ頬を戻し、後片付けを手伝う。

「子供たちが可愛いから嬉しくなっただけです!」

「ふうん」

ちゃんと聞いているのかかわからない柊也さんをキッと見て、猛スピードで片付けてやった。

「ねえねえ、お姉さんは紙芝居のお兄さんのこと好き?」

「えっ!?」

絵をケースへ入れて一息吐いていたとき、隣にきた一人の女の子からこそっと質問された。

ドキリとして思わず周りをきょろきょろするけど、柊也さんは離れた場所で他の子供たちに囲まれていた。

「ねえ、好き?」

再びわたしに訊いてきた女の子は、首を傾けてわたしを見ている。

相手は子供。だからこそ、ヘタな回答はできない。

嫌いとか、普通とか、そんな冷たい言葉を使ったらいけない気がした。

「好き……かな」

そう言ったわたしの頬が熱くなる。

やだやだ、バカ。なにひとりで照れてるんだろう。

女の子が訊いてきた『好き』に深くて濃い意味はないのに。

こども心にあるお気に入りみたいな、そんな感じでしょう?

落ち着け、わたし。
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