腹黒司書の甘い誘惑
「そうなんだ! 好きなんだ!」

心の中で一生懸命言い聞かせていたわたしにそう言った女の子は、くるりとわたしに背を向けて走り出す。
女の子が向かったのは柊也さんのところ。

この時点でなんとなく予想がついた。
ちょっと、まさか……。


「ねえねえ、あのお姉さんも紙芝居のお兄さんのこと好きなんだって!」

大きな声を出しながら柊也さんを囲う仲間たちの輪の中へ入っていく。

気づいた他の子供たちが女の子とわたしの方を見た。

ええっ……。

もちろん、みんな柊也さんが好きらしく、男の子も女の子もわあわあと笑顔で柊也さんにくっついているから、子供たちはそこまでわたしを気にしてない様子。

だけど柊也さんは違う。
女の子の言葉を聞いた彼は、わたしの方を「ふうん?」という顔で見てきた。

違う、これは仕方なく答えた、ただのお世辞!
なのにわたしの顔は火照っていた。

お世辞だというには説得力のない表情だ。
照れる必要なんてないのに、心の隅に置いている感情が過敏に反応しているらしい。

やだ、もう。
わたしは顔をそらして勢いよく鳴る鼓動が静まるのを待った。
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