腹黒司書の甘い誘惑
「子供たち以外にも人気ですね」

歩きながらついそんな言葉が口から出てしまった。

柊也さんはこちらを見て目を細める。
物凄く意地悪な顔だったから、わたしは『好き』と言ってしまったことを思い出した。

「あ、あの、あれは仕方なくですからね!」

「あれって何?」

「女の子が言っていたことです! ……その、す、すきって……」

「ああ。君が気にしてるほど俺は気にしてないけど。だって子供に合わせて言っただけ、だろ?」

柊也さんは唇の端を上げ、そわそわしていたわたしを余裕ある瞳で見てきた。

わたしの気持ちを見透かしているのかもしれない。

わざわざ自分から説明なんてしなければよかった。

この場合、わたしは顔をそらしてとりあえず無言で頷くしかない。
いっきに恥ずかしさが沸き上がってくる。


ふっと笑った柊也さんに何も言えず、唇に力を入れていた。

時間を戻すスイッチがあればいいのにと、切実に思う。
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