腹黒司書の甘い誘惑
彼の表情がどうであっても、ここまで言ってしまったわたしは止まれない。

気持ちを伝えようとしている自分を傍観しているような意識だった。

「わたし、あなたのことが――」

言葉を発している途中で柊也さんがこちらに向かって歩きだしたから、わたしは反射的に声を止めた。

見つめている柊也さんがそばに来る。
高ぶっていた心がいっきに――冷めた。

「くだらない」

彼はわたしの横を通りすぎるとき、吐き捨てるようにそう言った。

わたしが何を言おうとしていたのか察した?
「好き」と言おうとしていたわたしに、柊也さんは「くだらない」と言った。

あまりにも強いショックで動けなくなってしまった。

背後でドアが開く音がして、柊也さんの足音が遠く離れていく。

静かな空間にポツンと残されたわたしは、ぼんやりと床を見つめていた。

大体、まったく可能性のないものだった。

一目惚れしてここへ柊也さんを見に来ていたときだって、鬱陶しいと言われたことがある。
遊びなら、なんて軽々しくことも言っていた。

そういう人に気持ちを伝えようとするなんて、馬鹿だったのかも。
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