腹黒司書の甘い誘惑
こういうときに限って土日の休みにひとつも予定が入っていなかった。

友達と会う約束があれば少しは気分が紛れたのかもしれないのに。

暇だとずっと落ち込んだまま。
だけど今から予定を作ろうという気にもなれず、結局だらだらと部屋で過ごしていた。


日曜日の夜。
スマートフォンが鳴って画面を確認すると、母親からの着信だった。

塞ぎ込んでいるわたしは出ようかどうしようか迷っていたけど、なかなか切れない着信音に仕方なく出た。

「はい」

『もしもし、理乃。どう、元気でやってるかしら』

「うん、まあ」

わたしを心配して定期的に掛けてくれる電話だとわかっているんだけれど、今回は気分的に明るい返しをすることはできなくて、そっけないものになってしまった。

『なに、どうかしたの? 仕事が上手くいってないの?』

「そんなことないって」

『本当? でも声に元気がない感じがするし……何かあったでしょう?』

「もう、なにもないって言ってるじゃん」

もやもやしている気持ちの所為でつい、キツい口調になってしまった。

すると母の方も、こちらは心配しているのに、と険しい声を出して溜め息を吐く。

『理乃、あなたもう少し友政を見習いなさいよ。仕事が忙しいのに、お祖母ちゃんやお父さんのことも気にかけてくれるんだからね』

またはじまった、と思った。比べられて、見習いなさいと言われること。

大人になってからそこまで気にしなかったのに、今日はとても不快な気分になった。


はいはい、と話を聞き流し、長い電話を切ると大きな溜め息を吐いた。

タイミングが悪い。体が重い。
ソファーに寝転がったわたしは、クッションを抱き締めてそこに顔をうずめる。

感情が不安定で、心が疲れて限界だった――
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