あるワケないじゃん、そんな恋。
「あ…菅野ちゃん…!」


店内に入った途端皆に呼び止められたけど、その声を無視して、私は自分の持ち場へと逃げ去った。


目の前には沢山の恋愛小説が並んでる。
これまで一切、興味も何も持ったことなかったけど。


昨日初めて読んでみて、一つだけ分かったことがあった。


どの本も夢や希望が詰まってる作品なんだ…ってこと。

私が知らなかっただけで、この中には女子の大きな願いが託されてるんだ…って。

恋する気持ちのドキドキ感とか、切なくなるくらい誰かが好きとか、そんなの…友達の話の中だけしか聞いたことなかったけど。


経験してみたい……と、ずっと何処かで願ってた気がする。

キスをするのならあの場所がいい…とか、夕暮れ時がロマンチックだな…とか、相手までは想像しきれなかったけど、夢は私にもあった。



なのに…!
なのに……!!



(何なのよ!!今のは!!!)



目の前の棚にあるのが商品じゃなかったら、私は間違いなく棚から本を全て叩き落としてた。

それくらい怒りが浸透してる。


(羽田の奴め、絶対に許さないからっ!!バカ!!マヌケ!!オタンコナス!!もう彼女なんかやらんっ!!ーーーーやってられんわっ!!!)






「おっ!羽田ちゃん……!」


少しだけ遅れてきた羽田を、皆が質問責めにしてる。
その声を聞くまいと、必死になって耳を覆う。
膝を折り込んで小さく丸まる。

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